セッション3(総合討論)
岩田:わたしは国際山岳年の委員会から雇われたコーディネーターでございます.隣には渡辺さんに来ていただいております.
さて,このシンポジウムを総括するというよりもむしろ,今,前に出しておりますOHPのようなメッセージをお伝えするという役目だと思っております.
ひじょうに密度の高いご発表・ご議論が午前中・午後にありました.それについてわたしなりにまとめてみますと,午前中の話は,山の高いところの環境保護,自然保護の話でした.結局われわれが山の自然を守るためにやらなくてはいけないことは,ひとつは入山規制,あるいは入域規制というものであろうと考えます.もうひとつは,いかにして環境保護の法制度を強化していくか,あるいはそれに関わる行政のシステムを効率のいいものにするか,ということだと思います.
午後に関しては,ひじょうに具体的な話が出ておりまして,藤田先生がなんどもおっしゃっていたように,それを具体化する方法を考えていかなければならない,ということでした.具体化策につきましては,地理学や経済学,社会学,政治・行政のさまざまな方面全体に関わることなので,ここでは言わないことにします.
しかし,もうひとつ重要なことは,われわれの意識改革,日本国民全体のものの考え方の変革であると思います.それにはネットワークを作り,このようなキャンペーンをどのようにやっていくのか,あるいは,環境教育をどういうふうにやるか,ということになると思っております.
それでは,最初に触れました山の入山規制・入域規制と自然保護の法制度の強化というお話について,はじめに石川さんに一言コメントをいただければと思っておりますので,お願いします.
石川:山の入山規制・入域規制については,実は今,尾瀬で大きな動きがあります.尾瀬は日本の自然保護の原点といわれる場所なのですが,みなさんご存じのように,尾瀬を突っ切る道路について,約30年前に日本中で大きな話題になりました.また,尾瀬は自然保護で守られた地域ということで日本の国立公園のモデルとされてきたわけですが,ここでいろいろな問題がおきております.
今週(4月)20日に前橋の群馬県民会館小ホールで尾瀬の自然保護を考えるというシンポジウムが開かれます.要は,国立公園とは何なのか,というシンポジウムです.今,尾瀬では特別保護地区に十数件の山小屋が建っています.北アルプスでもそういった状況は同じでして,特別保護地区にある山小屋のあり方を含めて,尾瀬の今後をどうするかといった議論がおきています.そういった意味では,今,環境省が自然公園保護法を約70年ぶり大改革しようと国会に提出しており,今年は自然公園のあり方を見直す大きな年になりそうだと感じております.
岩田:どうもありがとうございました.私は上高地のことにちょっと関わっておりますが,上高地でも環境省と林野庁とのせめぎ合いみたいなことがひじょうにありまして,なかなかうまくいっていないというところがあります.入山規制・入域規制については,実際は環境省もやりたいのですが,それが行われていない.上高地では道路交通法によるマイカー規制,尾瀬では宿泊者の予約制といった規制が行われていますが,ひじょうに法整備が不十分なところがあります.それは今後,徐々に改善されていくのだろうと思いますが,そういった問題があります.
多くの人は,入山規制に賛成という意見が強いのだろうと思います.白神で入山規制を強く主張されている牧田先生という方がおられますが,先ほど帰られたのでコメントがいただけないのが残念です.
登山をされている方や,山を生活にしておられる方は,それとは逆の意見を持たれている方がいると思います.「山は本来,自由である.入山規制,特に役所の入山規制はけしからん」といったお考えの方は多いと思います.その辺のところは,ひじょうに多くの議論が白神山地などでもなされておりますが,それについて何かご意見はございますでしょうか.山登りの人にも意見を言わせろ,というコメントが届いておりますので,どなたかございますか?
では,次に進みます.
もうひとつは意識改革の問題,教育の問題という点でございます.午後のセッションの最後に藤田先生がおっしゃいました.具体的でわかりやすい例が出て,これらはひじょうに地理学的である.これからは地域の評価を繰り返してやっていかなければならない,と.そしてこういったことが,具体的な提案を軌道に乗せていく話しの元になっていく,というようなことをおっしゃいました.じっさい,今日のシンポジウムは地理学会が主催者のひとつになっておりますので,地理学の宣伝をする必要もありますしね.
はじまりの時に渡辺さんもおっしゃっておりましたが,山の環境,開発といった問題を扱うときには,人間と自然の関係を両方やらなければならない.これは地理学の主要なテーマで,ひじょうに具体的,個別的な差異を明らかにしながらやらなければなりません.これも地理学の得意とするところであります.地理学が関わっていくべきひじょうに重要な問題だろうと考えております.
ここには地理学者の方がたくさんおられますが,どなたかこの件に関しましてコメントをいただけたらと思っておりますが,いかがでございますでしょうか.
渡辺:さきほどすでに地理学の宣伝をいたしましたから,むしろその話から離れようと思っております.もちろん,地理学だけでいろいろな問題がよくなる訳ではないのです.それは自明です.今日の話ひとつとっても,林学が関わってきたり,水が関わってきたり,砂防が関わってきたり,いろいろなことが関わってきます.
ネットワークをつくる,とわれわれ地理学者が言い出したわけですから,地理学者が主体になって責任を取るということでも構わないのですが,地理学とか,ナントカ学とかいう既成の学問にとらわれず,山岳学とでも言うのでしょうか,山の学問,ひろい意味で山の環境,自然,社会と,すべてを扱うものをつくって行くべきだと思うのです.そういった意味でのネットワークづくりというのが大事ではないかと思っています.そういうことを束ねる役割として,地理学者が貢献できるのではないかと思っております.
岩田:どうもありがとうございました.
わたしばかり喋るのはちょっと問題があるのですが,時間が限られており,どうしても言わなければいけない問題があるので,そちらに移らせていただきます.
うしろに出しましたように,国際山岳年という趣旨は,ここに挙がっているように,脆弱な山岳生態系の管理,持続可能な山岳開発という,今日の午後に議論したようなことです.これは国連大学が言い出したことで,“国際”,ということばがついているので,日本国内だけではなくて,世界に広めていかなければならない趣旨になります.
今日の主題は,日本の山でした.今後の問題になりますが,今,発展途上国だけではなく,スイスの山などでも山の牧場で牛を飼っている人は全部,じつは非ヨーロッパ系の人たちなのです.あるいは,東欧や地中海周辺の人々である,という話になっております.これは先進国でも同じような状態なのですが,じっさいアジアの発展途上国のなかには,国土の大半が山である国がいっぱいあります.具体的には,ネパールとかブータンとか,中央アジアの国々があげられます.それらの国では,さきほど流域全体といっていましたが,流域全体も山であるという国々があり,山の環境を守るということは国を守る,国全体を守る,という国がいっぱいあるわけです.そこではどんな状況になっているかを,報告していただきたいと思います.
ヒマラヤの図式というのがありまして,ヒマラヤの環境問題は以前から言われております.それについて渡辺さんが一番よくご存じだと思いますので,一言お願いいたします.
渡辺:われわれ日本人にどれだけの議論ができるのかわからないのですが,ちょっと唐突なはなしをさせて頂きます.わたしはヒマラヤの中でもネパールのことばかりやっていて,ネパールのことしか知らないのですけが,ネパールはご存じのように去年から国王の殺害事件にはじまって,昨日,今日もまたニュースになっていますが,反政府主義の“マオイスト”という人たちが次々と事件をおこしています.
1月31日と2月1日に行われた国連大学でのイベントでも話題になりましたけれども,世界の山岳国家のなかでは,かなりのところで紛争があるわけですね.それはいわゆる,武器を使って人殺しをするということをやっているのです.そういうことが行われている国というのは,環境を守るとかなんとか,そういっていられる状況ではないのです.われわれが自然環境を守るとか社会環境を守るとか言っていることをはじめる前に,ネパール・ヒマラヤでは今,政治的なところでどうやって安定化させるか,そこに対してわれわれがどういった貢献ができるのか,ということもやっぱり考えていくべきじゃないかと思っております.
岩田:おなじく,ヒマラヤの隣のカラコルムで調査されている水嶋先生に一言お願いします.
水嶋:コーヒーブレイクの場所にある写真を見ていただければわかりますが,フィールドはカラコルム山脈の谷底深いところにある小さな集落にあります.この集落は約2500〜2600 mから3000 mぐらいの高さにある集落で,インダス川の上流にあたるところになります.しかし,インダス川上流の水を使うことはできません.氷河から流れてくる夏場だけの水しか使うことができません.なぜかといいますと,インダス川の水を使うための電力がないからです.ようやくこの10年ほど前から電気が通り,ランプだけの生活から,小さな豆電球のようなものを使う生活になっていったわけです.
ところが,パキスタンから中国まで抜けるカラコルム・ハイウェイと呼ばれる道路が夏場,クンジャラオ・パスと呼ばれる4800 mの峠を越えて開通しました.それにより,日本の一部の観光業者が,未知の体験とシルクロードのひとつにあたることを売り込み,シルクロードを体験しましょう,とツアーを組んでいます.今では春先から夏場にかけてたくさんの日本人観光客が押し寄せています.観光客の入れ混む客数としては日本人がかなり多くなってきています.わたしからすると,無謀なツアーだと思います.
北京からウルムチ,カシガルを越えてギルギット,そしてイスラマバードまで10日間で抜けてしまうのです.10日間で抜けるのがとても無謀な4800 m ,5000 mのところから,100 m,200 mのところまでの移動ですから,大変なことになるのですけれども,それでもやっぱり抜けてしまう,というようなツアーが多くなっています.その結果,かなりのホテルが今どんどんできてきています.ホテルができますと,若いひとたちはガイドをやったり,ホテルのマネージャーをやったりしてお金を確保します.しかしそのホテルは,大きな資本のホテルですから,地元にあまりお金が落ちないことになります.地元にお金が落ちる,ということは,若い人がいればお金も落ちることになるのですが,結局,商品経済がどんどん,どんどん入ってくることによって,実はお金が必要になってきているのです.
氷河の中を流れてくる水をほそぼそと利用して,小麦や大麦を作っていた村々が,最近はどんどん換金作物のじゃがいもを作り出しています.なぜじゃがいもかと申し上げますと,北海道のじゃがいもがおいしいように,高冷地で寒いところのじゃがいもが市場で人気を博しているのです.今まで伝統的な小麦や麦を作っていたものから,じゃがいもを作るところに今,農村が変わってきているのです.その結果,じゃがいもの生産量を上げなければなりませんので,化学肥料をどんどん使うようになりました.その化学肥料が,日本のように飲料水と別々になっていればなんら問題はないのですが,じつは化学肥料が飲料水に混じるという問題がおきています.経済開発が環境を汚染し,むしろ健康の問題といったところまで,大きく提示されるようになってきました.
農村開発を進めているのは,イスラム教のイスマイル派という宗派です.アン・ハンという教祖様がおられまして,アン・ハン・ファウンデーションと呼ばれております.ルーラル・デペロップメント,つまり農村開発を積極的にやろうと言っております.彼らの言うところの農村開発とは,経済基盤をどう作っていくかということで,生産量を上げるためにじゃがいも開発やフルーツ開発をやるのです.
でも,「そのやり方は違うぞ」とわれわれが言っても,「いや,やっぱり貧しいからこうするしかない」と答えてくるのです.結局,観光開発の名のもとで,農村における貧富の差が大きくなるという問題がおきています.場合によっては,もうちょっと奥に入ったところの村々では,過疎問題がおきてきて,若い人たちがほとんどいなくなり,年寄りだけになってしまうという問題が提示されております.こういったことが今,カラコルムの山々の現状ということになります.長くなりました.
岩田:どうもありがとうございました.カラコルムで起こっている過疎化はヒマラヤでも一部の地域で起こっています.それから,化学肥料が導入されたおかげで,耕地がずいぶん広がっています.これまでは牛などの糞で耕地面積が決まっていたのが,耕地が広がり,そのせいで山崩れ,崩壊がひじょうに多くなっているという報告があります.桧垣さん,いらっしゃいますか? ネパールで長いあいだ砂防のことをやっておられた桧垣さんに一言,土壌侵食か崩壊といった点に関しましてコメントを頂けましたらと思います.
桧垣:わたしはJICAの仕事の関係で,ネパール・ヒマラヤで砂防関係をさせていただいておりました.現地で感じる日本と少し違う点は,流域全体にとにかく人が住んでいるのです.そこで崩壊が発生します.斜面全体に畑が広がっており,そこで夏に強い雨が降れば,当然,土砂が流れ出す.土砂が下流に流れ,せっかく下流に灌漑施設などを作っても,そこに土砂が堆積し,川道の位置が変わって灌漑施設が使えなくなったりするのです.これらは流域全体の問題として,山の問題を捉える必要があります.それから,そこでは人間そのものが,山の自然の天然資源を利用しているということを,まず重要視しておく必要があると思います.山は人間にとってひとつの資源であり,もちろん動物にとっても資源です.山の問題を考えるときには,そういったものをどんなふうに持続的に使っていくかが,まさに今の地球環境問題そのものであり,そのすべてが山にあるのではないか,という気がいたしております.
岩田:どうもありがとうございました.
数年前にわたしが経験したことをご紹介いたします.ブータンでひじょうに土石流の危険がある区域がございまして,ブータン政府の地質調査所の方から,なんとかしてほしいという依頼がありました.すぐさま建設省関係のコンサルの方を紹介しましたが,ブータン政府の回答は,日本のコンサルに払うお金はない,お金がかからない方法でなんとかしてくれ,と頼まれました.その時すぐに桧垣さんを思い浮かべて,桧垣さんにお願いしたら,桧垣さんは蛇篭(ジャカゴ)をならべるだけで見事にその問題をクリアしてくださいまして,ブータン政府からひじょうに感謝された覚えがございます.
このように,われわれができることはいっぱいあると思います.現在ヒマラヤ地域でも,今ご紹介があったようないろいろな問題がございますが,われわれの力でもできるようなことは,たくさんあるだろうと考えております.
国際山岳年がねらっているのは,このようないろいろな問題をわれわれが認識し,それらを正確に把握する.そしてそれがどう変化していくのかをモニターし続ける,というところがまず大事なのだと思っております.
さて,世界の山に関しまして,ほかの例について発言してくださる方はおりますでしょうか?
特に東南アジアなどの熱帯林や,熱帯林よりもう少し高いところ,あるいは水田,棚田などの問題,ほかにもいろいろな問題がおこっているはずですが,どうでしょうか?
外国の山の問題に関わるもうひとつの点は,日本人がいろいろな資源を利用することによって,外国の山の環境がダメになっていくという例があります.いちばん代表的なものは,東南アジアの熱帯雨林の問題だと思います.極東でも今,同じように森林が伐採されている問題について,午前中に武川さんからお話しがありました.もう少し詳しくその話を聞かせていただきたいと思うのですが.武川さん,いらっしゃいますか?
武川:森林伐採のはなしについてですね.さきほど話せなかったことをお話しします.
東南アジアの熱帯雨林の伐採問題がひじょうにクローズアップされたのは,89年頃から90年にかけてかと思います.それ以降東南アジアでの伐採がしづらくなった日本は,どこに目を向けたかといいますと,ロシアに目を向けたのです.ちょうどペレストロイカが行われ,市場経済化に向けたロシアに目を向けました.1990年,ロシアから日本への丸太輸入量が飛躍的に伸びてきました.当時,全輸入量の6%しかなかったものが,91年になると24%に伸び,95年ぐらいまでだいたいそのぐらいの率を持続しておりました.その後,1997年ぐらいには,また10%,14%台に減ったのですが,じつは韓国企業を経由して,迂回輸入というかたちをとるようになりました.つまり,丸太ではなく製材として輸入するようになったのです.それと同時に,ロシアでの伐採問題がひじょうにクローズアップされました.東南アジアでの社会問題,国際問題ほど発展はしておりませんが,アメリカや日本国内のNGOから強い突き上げがありまして,伐採や輸入を厳しく制限しました.その結果,日本が買わないのだったら中国に売ってしまえ,という動向がおこりました.
わたくしが出かけた地域の周辺は全部白樺林です.なぜかといいますと,白樺は二次林ですので,約100年かかって伐採しているものが,全部白樺に移っています.白樺はきれいでいいな,という見方をされますが,ほとんど材として扱えません.二次林として今後どうするのか,ということが,今ロシアの中では少し問題になっています.
また,1986年にバウム鉄道が開通しました.日本海まで開通した第二シベリア鉄道で,シベリア抑留者が戦後ずっと,血を流し,汗を流し,命を落として作り上げた鉄道です.そのシベリア鉄道,第二シベリア鉄道沿いのバジャール北方の森林帯,チェグドメンという地域を中心に広大な伐採が行われています.これは地平線が全部見えるほどの伐採になっています.
この伐採がどのようなかたちで行われたかと言いますと,以前話題になりましたが,北朝鮮の政治犯の教育,再教育収容所というかたちで,チェグドメンが北朝鮮人を多く収容していた時代があります.彼らがほぼその伐採に参加して,1994年の契約期限切れまでずっと伐採を行っていました.これはものすごい量です.
ここは世田谷ですか? ここから東京駅ぐらいまでの距離の森林帯が,だぁーっと切られ,延々と荒れ地になって続いています.ヘリコプターから見下ろすと,かつてここはなんだったのだろう?と考えるほどの場所がなくなっています.チェグドメンで森林を切り尽くしたあと,こんどは極東のシホテアリニ山脈などの優良な材のあるところに移ってきているのが現状です.そして,それらを買い付けているのは「日本」なのです.
岩田:どうもありがとうございました.
いくつかの地域における山の自然環境の変化や破壊について報告していただきました.わたくしがそれを受け,われわれがこれからどうしたらいいのかということを言わないといけないのですが,特にいい考え方があるわけではございません.われわれの考えとしては,秋に金沢で開催される日本地理学会で,このような会をもういちど持ちたいと思っております.その際には“日本の山から世界の山へ”という,テーマの最後の部分についてもう少し具体的にいろいろ考えていく機会を作りたいと考えております.
金沢で開催されますので,白山のフィールドワーク,見学会といったものも企画して,登山に関係するところも実際にわれわれの目で見ようと考えています.また,このような秋の予定を受けまして,国際山岳年が終わるまでに,われわれ国際山岳年日本委員会が世界に発信できるような提言をまとめていきたいと考えております.それとともに,国内のいろいろな活動のネットワーク作りや,海外,特にアジアの山関係のグループ,研究者とのネットワーク作りもこの機会に進めていきたいと思っております.そのあたりのことが,このような機会を使ってわれわれにできることではないかと考えております.これはわれわれ国際山岳年日本委員会の数人で考えたことですので,こういった方向性についてご意見,ご質問がございましたら,ぜひこの場で発言いただけたらと思いますが,いかがでしょうか?
ぜひ,みなさんにご協力いただきたいと思っております.ここにいらっしゃる大部分の方は,山が好きで仕方がない,という方だと思います.あるいは,山の花,山の植物,山のくらしが好きな方や,山に住んでおられる方だと思いますので,ぜひ一緒に日本の山,世界の山を守るために活動していきたいと思います.
どうぞ,江本さん,お願いします.
江本:さきほど発言させていただきました江本です.国際山岳年日本委員会を立ち上げるときに,ちょっと苦労した裏話を申し上げます.
日本にはおもな山岳組織というものが6つ7つぐらいあるんですね.日本山岳協会,勤労者山岳連盟,日本山岳会,ヒマラヤ協会,日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(ハットジェー).ハットジェーというのは山岳環境保護をやっている団体です.それから,日本山岳ガイド連盟,山岳ガイド協会というのもその老舗のひとつです.今回わたしが申し上げたいのは,そういった人たちは独自の道をそれぞれやってきたのですが,今回はじめて手をつないだといいますか,地理学会の先生方が“のり”の役割をしてくださり,学者も加わって,山の好きな人たちの委員会みたいなかたちになっていったのです.
ぜひ山の組織に協力を,と岩田さんがさきほど呼びかけられたことに対して,みなもそれを待っていたと思います.仮に山ネットワークといいますか,さきほど渡辺さんが言われたように,山の学問,山岳学,あるいは文化学,といったものの機運になってきていると思います.金沢に向け,そのときには具体的な提案として,ぼくらも応援します.学会だけではなく,山の組織もほんとうに全面的に協力すると思います.そういった雰囲気が少しずつできてきています.この場を借りて,できる範囲のことは協力させていただきたいと申し上げておきます.
岩田:いろいろありがとうございました.この会を開くにあたり,われわれは山関係の方々にひじょうに刺激を受け,かつ援助もしていただいております.ここに来ている人の半分は研究者かもしれませんが,その研究者の半分は,完全に山屋さんである,という世界です.おたがい,壁があるわけではないので,これからもこれを機会にますます手を携えてやっていくことにしたいと考えております.
小野:僕がちょっと問題があるなと思うのは,午前中は,山を守るは森林を守る,と書いてあるのですけれど,その議論として,森林を守るというのは“絶対切っちゃいけない”,ということではないと思うのです.
午前中の議論も結局は,山村の持続的発展,ということをみんな議論していたのだと思います.つまり午前中が自然保護で,午後は開発発展だ,という切り口でやっていたはずじゃないのです.今まではそういう議論が多かったのですが,ぼくらが目指したのはそうじゃなくて,自然保護をやることがそのまま山村の持続的発展につながるのだ,という道をはっきりさせなきゃいけない.ですから,自然のガイドや山の登り方の多様性ということも,そういうことだと思うのです.
じっさい間伐材の問題もそうですが,絶対切るな,ということではなく,人工林は少なくとも切りながら,手入れをしながら育成していかなければ,結局日本の森林はひょろひょろの状態で残って,さきほど紹介があった極東や熱帯林を伐採してしまうことになっちゃうわけです.そうではなくて,日本の森林も,人工林はきちっとした管理ができるようにしなければいけないと思います.
それから日本の山登りも,管理,管理,というのはいやなのですが,今よりはもっといい管理をしないとおかしくなるのではないか,と思います.管理をする主体が山村にあって,そのことで山村の雇用も増やすことができるのではないか,とそういったつながりで議論してきたように思うのです.そういう点で午前と午後をつないで,金沢に向けて議論していただけたらと,ぼくは思います.
岩田:そういった方向で話を進められるように努力していきたいと思っております.しかし,現実にはそのように話がつながらないので,森林限界の上と下,あるいは奥山と里山でもいいですが,そこをどのようにつないでいくかが,われわれがひじょうに努力して考えていかなければいけない問題だと思っております.まだ問題は残されていると思います.
小泉:わたしも小野さんと同じことを言おうと思っておりました.実はですね,先日,東京営林局に話をしに行って来たのですが,昔は山のことを代弁してくれる代議士が何人かいたそうです.かつて全林野という労働組合が全国20万人くらいおりまして,そこからだいたい2人か3人は議員を出せたのです.特に長野県や北海道,秋田あたりから出たそうです.現在,全林野の組合が9000人ぐらいになってしまいましたから,代議士も何もないのです.要するに,日本の国土の7割は山なのですが,それを代弁してくれる人がひとりもいなくなってしまっています.みんな過疎地域で,元はもうちょっと人がいたので代議士も出られたのですが,今はいないのです.そういった状況ですから,どうしようもない状況になっているわけです.
今日の話は,基本的にはみんな政治の問題に絡んできます.教科書ですと,熱帯雨林を守らなくちゃいけない,アマゾンの破壊だ,サヘルがダメになった,といった問題がいっぱいでてくるのです.では,どうするか,という具体的な話ではないのですが,結局最終的な目標は,熱帯雨林の伐採はなるべくやめ,そのかわりに小野さんがおっしゃったように,日本の森林をできるだけ利用していくのです.
わたしがさきほど申し上げたように,こんなに恵まれた環境の国というのは,世界中探しても,そうないわけでして,ものすごく条件の悪いところで伐採したりしているわけですね.ですから,持続的にならない.日本の場合はそういう持続的な開発といいますか,伐採などが可能な環境にありながら,他の経済的な条件がうまくいかないためにほっぽられて,環境が悪くなっていく.うまくやるとしたら,日本の木をどんどん切って利用して,その分,熱帯や亜寒帯の木を輸入するのをやめる.それが一番いいわけです.ところがそれは政治的な問題,経済的な問題でうまくいかないわけでして,そこをやはり少しアピールしていって,なんとか実現していく方向に向かわざるを得ないと思うのです.
森林湖付近ですと水源税などの実現になるでしょうか.環境省の予算を今のように少ないものではなく増額してもらい,従来の土建国家的なムダをなるべく減らして,そういったものの実現に回してもらう必要がありますね.場合によっては,木材の輸入に対して税金をかけるなどしてもらう.すぐには実現できないかもしれませんが,だれも言わなければいつまでたってもぜんぜんよくならない.最終的には熱帯雨林がみんななくなっちゃった,というはなしになってしまうわけです.なるべくそういったことを早く実現しなくてはいけないと思うのです.
さきほど言ったように,それを代弁してくれる人は,今,国会にはだれひとりとしていないのです.そういう状況をこの席で言ったところでなかなか実現はしないのですが,少なくともそういう人を増やして行かざるをえないと思うのです.その辺のことを極力アピールしていくのが,この国際山岳年日本委員会の役目のひとつになるのではないかという気がします.
岩田:まさにおっしゃる通り.国会議員で山好きの方も何人かいらっしゃいます.
じっさい,国際山岳年の行事をするにあたっては,いろいろな役所にも働きかけたりしました.国連大学としては外務省からお金を取りたかったわけですが,外務省がああいう状況だったのでうまくいかなかったのですが.
国際山岳年というのは,実は政治的な企画でございまして,山登りの好きな人と,研究者が集まってやるだけのものではないのです.そういうふうに終わっているというのが,一番残念なところで,今後できる限りのことをしていかなければならないと思っております.
どうぞ,大森さん.
大森:ひとつだけちょっとお話したいのですが,“守る”という字はずーっとあるのですが,“復元”しようということばがどこにも出てこないのですが.そういうことは地理学会として検討する場所じゃないのでしょうか?
岩田:わたしがお答えしてよろしいでしょうか? 地理学は復元するということをもちろん考えていますが,復元するのは工学のほうでやりたい人がいっぱいいるので,地理学としては“守る”というところに力点があると考えております.
藤田:さきほど座長をさせていただきました藤田です.
国際的な木材需給のなかでの日本の立場というのが,さきほどからちょっと議論になっていると思います.これまでは“外材時代”といいますか,日本の国産材は2割くらいしか価格の上では利用できないという状況なのです.さきほどからのお話にあるように,南方材,南洋材というのはいろいろな規制がかかりはじめています.また,ロシア材として多く入ってくるのは不法材といいますか,法的にロシア政府が認可していないものが現実にたくさん入ってきているわけです.したがって,ロシア政府が今後きちんと管理することになると,日本にはたちまち入ってこなくなります.
もうひとつ重要なことは,これまでたくさん入っていたカナダ,アメリカなどの材,特にカナダ材が最近は保護されている現状があります.森林保護や伐採のしすぎといった意味で保護されているのです.じつは昨日まで3日間ほどカナダから来た森林専門の先生とずっと一緒におりまして,こういったことをひじょうに強く語っておられました.現実には,日本にはもう入らなくなるだろうということが予測されるのです.
そうなりますと,外材のかわりに実際には何が使われているかということになりますね.さきほどの西野さんの発表でもおっしゃっていましたが,梁材というのは杉を使っていた.ところが,今までは外材で全部やってきたわけですよ.そうなりますと今業者が何をやっているかといいますと,パイトウッドというものを使っているのです.英語にはありませんが,日本流にパイトウッドというものを使い,これはみんなヨーロッパからやってくるのです.北欧からくるのです.大変な距離ですね.それでもそれを使っているわけです.しかも急増しています.しかし,こういった状況がいつまでたっても続くわけではない.そうすると,もうまもなく,日本の政治的動きがないままに,外国の政治的な動きの中で,日本は国産材をなんとかしなければいけないという時期がくるのではないか,という空気をひじょうにひしひしと感じているわけです.
ところが林野庁は林業基本法を大転換して,生態系維持の方向を打ちだしてきました.これはある意味でひじょうにすばらしいことではあるのですけれども,従来の生産材の部分を切り捨てて,環境材のほうに変えていってしまっているという現実があります.ただ,ちょっとそれが動き出したとたんに,また大きく変えざるをえない時機がくるのではないかと,わたしは個人的に感ずるわけです.あの政策がいいのかどうかということに対して,ひじょうに疑問に思うのです.そういう点では,じっさい日本の山というのは,周辺の東南アジアだけではなく,太平洋を挟み,今やヨーロッパまで行っているといえます.それらを踏まえますと,世界の需給の中では,ある意味,外国の政治に動き回されながら支えられてきているのです.その辺のところを見ていきませんと,今後の日本の山をどうするか,という問題が外圧の中で決められてしまうところがありそうな気がいたします.そういう点でも,今後少なくとも10年くらいのスパンの中では,そのあたりの問題をちょっと考えていかなければいけないのでは,という気がしました.
岩田:はい,どうもありがとうございました.
まったくまとまりのない司会ですので,どうしようもないのですが,時間になりましたので今日のところはこの辺で終わらせて頂きたいと思います.今日はこれで終わりますが,また秋にも開く予定ですので,今日言い足りなかったことや,それを発展させてさらにご意見をおっしゃっていただきたいと思います.
今日は,本当に長い間,どうもありがとうございました.